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最高裁判所大法廷 昭和27年(テ)6号 判決 1954年10月13日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田村三吉の上告理由(後記)第一点について。

最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする事件が終審としてその事物管轄に属すべきことは憲法上要請されているところであるが(憲法八一条)、その他の事件の審級制度については法律の定めるところに委されていると解すべきであるから、下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることと定めるか否かは審級制度に関する立法の問題であつて、なんらわが憲法の制限するところでないと解することは、当裁判所大法廷のすでにくりかえし判示するところである(昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日判決、刑集二巻三号一七五頁。昭和二二年(れ)第一二六号同二三年七月一九日判決、刑集二巻八号九二二頁。昭和二二年(れ)第一六七号同二三年七月一九日判決、刑集二巻八号九五二頁参照)。従つてこの趣旨からいつて、簡易裁判所を第一審とする民事事件の上告審を高等裁判所とすることを定めた民訴三九三条及び裁判所法一六条三号の規定は、なんら憲法三二条同七六条同八一条のいずれにも反するものではない。

同第二点について。

民法五九七条三項が、使用貸借における当事者が返還の時期を定めなかつたときは、貸主は何時でも返還を請求することができるという趣旨を定めたのは、使用貸借が本来無償であることに基づくのであつて、このため借主が賃貸借におけるような保護を受けないからといつて、憲法二二条同二五条又は同二九条のいずれにも反するものではない。論旨は理由がない。(なお論旨末段に民法五九三条とあるのは冒頭記載にかかる民法五九七条三項の誤記と認める。仮りに民法五九三条について別に主張するものであるとすれば、右法条は本件上告人の敗訴に直接関係がないから所論違憲の主張の前提となることはできない。従つて適法な違憲の理由に当らない)。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官斉藤悠輔の少数意見を除く外全裁判官一致の意見によるものである。

裁判官斉藤悠輔の論旨第一点に対する少数意見は、次のとおりである。

民訴四〇九条ノ二の規定による特別上告は、高等裁判所が上告審としてなした終局判決において、法律等が憲法に適合するか否かについてなした判断の不当なことを理由とするときに限り、これを為し得るものであることは、同条の明文上疑を容れないところである。しかるに、本件上告理由第一点は、原審で主張も判断もない違憲事項を創作するもので、従つて、右の法定の場合に当らないこと明白であるから、特別上告適法の理由として採用できない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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